ゆだんすると新しい用語が出てきがちな医療業界ですが、「メノポハンド」は最近のお初です。
調べますと2022年に日本手外科学会が命名したもので、更年期に起こる手指のこわばりや関節の痛みの総称ということでした。更年期を英語でメノポーズ (menopause)と言いますので、メノポーズとハンドを合わせて「メノボハンド」というわけですね。ちなみに英語ではメノポーザルハンド(menopausal hand)というのが正式です。
さて、更年期に手の不調が増えることは今や実体験として身に沁みていますが、そのむかし医学生のときは習いませんでしたし、患者さんから「内科で『更年期になってきて手指がこわばる』と言ったら、そんなことはあり得ないと言われた」という話も聞きますので、整形外科、産婦人科以外では認識が薄い概念だと思います。そこの周知を図っていく目的で命名がされたのでしょうね。
では、改めましてメノポハンドの原因についてさらっておきましょう。
女性ホルモン(エストロジェン)には月経を起こす以外にもさまざまな働きがありますが、その一つに関節や腱(いわゆるスジ)に存在する滑膜(かつまく)を守る作用があります。滑膜は関節をスムーズに動かすための滑膜液(いわゆる潤滑油)を分泌していますので、滑膜の働きが悪くなると関節や腱を動かした時に痛んだり、長引くと関節の変形を起こしたりします。具体的な病名で言うと、へバーデン結節、ブシャール結節と言われる変形性関節症、手根管症候群、ばね指、母指CM関節症、ドケルバン病などがこれに当たります。
ちなみに滑膜の病気としてもう一つ有名なのが、関節リウマチですね。こちらはメノポハンドとは異なり、滑膜を攻撃する自己抗体が原因となるいわゆる自己免疫疾患です。関節リウマチの場合は、肩、肘、股関節、膝など全身の関節に影響が出ますので、症状の違いから判別できることが多いのですが、初期段階では分かりにくい場合もありますので、このような時は当院でも血液検査などで診断をしてます。
さて、メノポハンドに話を戻しますと、なかでもへバーデン結節は日本人に多いと言われる症状です。これは指の第一関節(一番指先側の関節)が太くなり曲がったまま伸びない変形のことを言い、「70歳代以上の日本人女性ではほぼ100%」という先生もおられます。学生の頃に習った時は何か遺伝的な要素があるのかな?なんて思っていましたが、自分が更年期になって思うのは「日本人女性はよく働くから指が曲がるに違いない」ということです。
滑膜液が少なくなっただけでは指の形は変わりません。痛みをこらえて動かし続けることで徐々に変形をきたすのです。特に料理やお掃除などの家事は、握る、つまむ、押す、びっぱるなど手指への負担が重く、できれば痛みがあるときはやらないで欲しいくらいですが、かといって代わりにやってくれる人もなく、無理に無理を重ねた結果、変形していくのです。家事だけではなく、手仕事全般もそうですね。テレビで伝統工芸など手仕事をしている女性の手を見ると見事にすべての指が曲がっていて、最近は「ああ、よく仕事をされたんだなあ」としみじみ感じるようになりました。
自分の経験で言いますと、まず50歳くらいの閉経前夜に両手のこわばりを感じるようになりました。このこわばりについては以前別のコラム(『更年期障害⑦ 指が痛い』https://www.keyaki-kampo.jp/column/83)にも書きましたが、漢方的には瘀血や血虚、水滞の関与が強く、桂枝茯苓丸、温経湯、加味逍遙散、苓桂朮甘湯などを単独、あるいは組み合わせて用い治療することが多い症状です。この際、エクオールのサプリメントを併用すると効果があがりやすいのですが、それでも効果を感じるまで1−2ヶ月かかることが多く辛抱強い治療が必要です。私の場合はエクオールを併用しつつ2ー3ヶ月の内服でスッキリと治りしました。
これで私のメノボ ハンドの歴史は終わったと思っていたのですが、豈図らんや、最近また指の不調を感じ始めました。前回とは全く違う症状です。こちらについては、後編でまたお話しします。また、後篇では自分でできるメノポハンドのケアについてもお話しします。