漢方豆知識
2025.08.14

熱中症のタイプ別処方と予防法

まだまだ暑い日が続きます。「熱中症で○○人が救急搬送」というニュースも、むしろ当たり前な日常ですね。暑い環境のなかで著しい脱水を起こして意識もうろう、ひどい頭痛や吐き気が続くような場合は、病院で点滴を受けるのが手っ取り早い治療ですが、まずはセルフケアで予防をするのが大切です。このセルフケアの場面で使える漢方薬、五苓散と白虎加人参湯の使い分け、またタイプ別の予防法について今回はお話ししていきます。

 

では、気象病(頭痛)の漢方としてもメジャーになりつつある五苓散から始めましょう。五苓散について書かれた傷寒論という書物には、五苓散を飲むべきシチュエーションとして「発汗後、大いに汗出で、胃中乾き、・・・、小便不利、微熱、消渇する」と記されています。

たくさん汗をかいて、少し熱が出て、ひどく喉が乾いた状況。まさに熱中症の初期段階ですが、ここで注目して頂きたいのは、「胃中乾き」という部分です。五苓散が効くのは胃が空の状態の熱中症、と私は解釈しています。

何となく夏バテ気味で、あるいはお腹をこわして朝食をほとんど摂らずに外出したとき、たいして長い時間外にいたわけでもないのに、だんだんふらふらしてきて、頭が重く気持ち悪くなってきて、そういえば全然おしっこ行ってない・・。

ここが五苓散の出番です。この段階でお茶をガブ飲みしても、ちょっと遅いんですよね。ここまで来たら経口補水液を少しずつ、プラス五苓散を少しずつ飲んで、涼しいところで休みます。それでも楽になってこなかったらご連絡ください。点滴をします。

熱中症の予防に経口補水液やスポーツドリンクを飲むというお話も聞きますが、私は反対です。五苓散も予防的に飲む薬ではない、予防の第一は朝食を摂ること、と考えています。それも「フルーツとヨーグルトとコーヒー」とか「パンとコーヒー」といったものではなく、タンパク質と塩分の入ったものが望ましいです。なぜなら、第一に、糖質が主体の朝食はすぐにエネルギーに変わる分、反応性低血糖を誘発するリスクがあり、熱中症の倦怠感を悪化させる可能性があるため。第二に、朝からフルーツを摂り過ぎると、含まれるカリウムの利尿作用によって脱水が助長される可能性があるため。第三に、コーヒーなどカフェインの多い飲み物にも利尿作用があり、これも脱水を助長する可能性があるためです。

暑い時期は、血糖値を安定させるタンパク質(できたら食物繊維も)と、発汗に備えた塩分、この二つを意識した朝食を心がけてください。ご飯とお味噌汁と焼き鮭なんて理想ですが、無理ならゆで卵に塩を多めに振りかけたものを追加するだけでも多少違うと思います。

 

さて、次に白虎加人参湯のお話をします。

白虎加人参湯も傷寒論に出てくる漢方薬です。そこには「大いに汗出でて後、大煩渇して解せず、脈洪大」「渇して水を飲まんと欲し、表証(発熱発汗)無き」場合に飲む薬と書かれています。

ここでの注目は「脈洪大」です。これは脈がバンバンしっかり触れてくるということですが、つまりは脱水はそれほどでもないんですよね。汗は出てる、ちゃんとご飯は食べているのでおしっこも出ている、脱水までは至っていないがとにかく熱がこもって顔がゆでタコのよう、そんな状況が出番です。

また、「表証無き」に現れている通り、そもそもほとんど汗をかいていない場合もあります。すごく暑いのに汗が出なくて、体に熱がこもって辛くて辛くてたまらない、ここがポイントです。こういう時に白虎加人参湯を飲むと体の芯の熱がひいて楽になってきます。セルフケアとして水分を摂ることはもちろん大切ですが、後頚部や脇などを冷やすのが効果的になってきます。

白虎加人参湯の合う方のなかには、暑くても汗が出ない、汗をかけるようになる漢方薬はないですか?と言って受診される場合もありますが、汗をかかせる漢方薬は基本的に体を温める方向に向かわせるので、熱中症の予防として使うべきものはないと今のところ考えています。白虎加人参湯で熱がこもるのを予防しつつ、運動やサウナなどを利用して汗腺のトレーニングをするのがいいのではないでしょうか。

こうしてみてみると、同じ熱中症でも、五苓散と白虎加人参湯の患者像はかなり異なっているのがお分かりいただけたと思います。あなたはどちらのタイプが近そうですか?自分のタイプに合わせた予防法で、ぜひ残りの夏を乗り切ってください。