不眠症
2022.09.23

不眠症対策② ー暑すぎる寒すぎるの対策ー

不眠には色々なタイプがありますが、寝るときに手のひらや足の裏が熱くて不快とか、ひどい寝汗で途中で目が覚めるとか、反対に手足が冷たくて寝られないとか、体温調整の不調からくる不眠というのがあります。

科学的に分かっていることからご説明すると、人の深部体温は朝6時くらいが最も低く、日中の活動により上昇し、夕方6時くらいをピークとして低下に転じるというリズムを毎日刻んでいます。

つまり、寝る前から朝にかけての睡眠中は深部体温が下がっていくのが正常で、この変化がスムーズだとよく寝られるということになります。

深部体温と一対をなす言葉が皮膚体温ですが、深部体温が下がる時は皮膚体温は反対に上がります。ここがちょっとややこしいところですが、体の芯の熱を放散するために皮膚の末梢血管は開いて温かくなる、とイメージすると分かりやすいでしょうか。お母さんたちは赤ちゃんの手足が熱くなってくるのを、おねむのサインとして捉えることもありますよね。

深部体温をうまく下げて寝やすくする方法として、入浴があります。入浴をすると深部体温が0.5℃ほど上昇しますが、深部体温は上がった分だけ早く下げようとする反対の力が働くため、スムーズな入眠につながるという訳です。深部体温が下がるまでには90分ほどかかるので、入浴は寝る90分前がいいと言われていますね。

また、薬膳的には深部体温を下げる食べ物(トマトやキュウリなど)を寝る前に摂るというのもあります。お風呂上がりにトマトジュースを少し、というのは試していいかもしれません。

 

さて、はじめに話を戻して、体温調整が難しい方の漢方治療についてもお話ししたいと思います。

まず手のひらや足の裏が火照って寝にくい方。これは赤ちゃんに起こっているのと同じ反応であり、それ自体は異常なことではありません。でも不快なくらいまで火照るのは、末梢血管の反応が行き過ぎてしまっている証拠です。深部体温の低下を助けるのと同時に末梢血管のしまりをよくする三物黄芩湯という漢方薬を基本に治療していきます。

ひどい寝汗で中途覚醒する方、この中にはさらに色々なタイプがありますが、前回のコラムで触れた柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯が効く不安タイプの不眠でも、寝汗を伴うことがあります。このタイプの方は仕事や家事で疲れていても、立場や責任感の強さから休むことができません。布団に入っても明日の仕事のことを考えたりして気が休まらず、深部体温の低下が不十分なまま夜中に突入します。それで夜中に一気に汗をかいて体温を下げようとする反応が起こってしまうのです。このようなタイプに対応する柴胡加竜骨牡蛎湯などは、深部体温を下げると同時に気持ちをリラックスさせてくれる効果があり、入眠も改善してくれます。

最後に手足が冷たくて寝られない方。このタイプの方はいつでも手足の末梢血管が固くしまっているために、熱を放散するべき夜になってもそれができません。そのため深部体温が下がらずうまく入眠できない訳です。靴下を履いて足を温め、末梢血管を開くのも一つの方法ですが、靴下を履いたままだと結局熱の放散は妨げられるので、深部体温はうまく下がってくれません。足が温まったところで靴下を脱いで熱を放散できればいいのですが・・。もし、履くのなら寝ているうちに自然に脱げてしまうようなユルユルモコモコの靴下か、つま先などが空いていて熱を逃せるようになっているのがいいでしょう。漢方薬であれば末梢血管を開きやすくする当帰四逆加呉茱萸生姜湯などを考えますが、日頃から緊張しやすい方は末梢血管がしまりやすいので、自律訓練法などで末梢血管を開く練習をするのもいいと思います。また、入浴はこのタイプの方には一番必要ですね。ぬるめのお湯にしっかり浸かる習慣をつけてください。