漢方症例集
2020.12.30

蕁麻疹と頭痛

12月29日にけやき通り診療所も仕事納めとなりました。

コロナ禍真っ最中の5月に一抹の不安の中で開業し、約半年間が過ぎましたが、私たちが思っていたよりも多くの方が来院してくださいました。本当にありがとうございます。

診療所が始まってからずっと、その日の診療が終わると院長と私とで相談に来られた方の振り返りをしています。漢方薬を飲んで良くなられた方がいらっしゃれば共に喜び、また力及ばずご期待に応えられない方がいらっしゃれば、何か見落しがないか議論を重ねていました。それでも全ての方に満足のいく結果を出せたわけではなく、私たちの力不足で患者さんにご迷惑かけてはならないと、この年の瀬に決意を新たにしております。

年末ということでこの半年を振り返ってみると、漢方薬の思いがけない効果に喜びを超えて驚くような、いくつかの症例を経験しました。

初診では主訴(困っている症状)を伺いますが、大抵はいくつかの症状をおっしゃいます。漢方的にその症状の結びつきが見えると、最初の処方で全ての症状に効果を期待できますが、生理痛の方が風邪をひいていらした場合などは、風邪を治療して、その後に生理痛に対する処方を考えるといった、二段構え治療になります。そんな一見全く関係がなさそうな症状を訴えられた一つの症例を、ご本人からの了解を貰って少しご紹介させて頂きます。

開業して間もない頃に40歳ほどの小柄な女性(K子さん)が受診してくださいました。主訴は2年前からの蕁麻疹と中学時代から続く頭痛でした。お話を伺うと、声の感じはとても穏やかですが、芯の強さのある頑張り屋さん。中学時代からの頭痛は根が深いので相応の時間がかかること、また頭痛に配慮し過ぎると蕁麻疹の治療に時間がかかる可能性があり、蕁麻疹から順番に治療させて欲しいこと、の2点をお願いしました。

蕁麻疹は明らかに頑張りと体力のバランスの崩れから生じた体の訴えでした。仕事のこと、睡眠や食事のことを伺い、診察もしながらK子さんの漢方的な状態を探っていきます。ここでは詳しい解説はしませんが、K子さんには気の不足と陰陽の気のバランスの問題がありました。治療には煎じの漢方薬を希望してくださり、気の不足と陰陽の気のバランス両方に配慮した漢方薬を調合しました。その後、蕁麻疹に関しては約1週間の処方で目に見える効果が出てきました。煎じ薬なので再診のところで細かい調整をさせて頂いていましたが、当初、蕁麻疹は良くなっていっても頭痛はやはりしんどいようでした。その後約3ヶ月で蕁麻疹はほとんど気にならないほどになりましたが、酷暑を越えて、少し体が休まるだろう頃までは治療を続けさせて欲しいとお願いして、頭痛治療の作戦を考えておりました。しかしその矢先、再診の時に頭痛の症状を伺うと、しばらく頭痛もしないとのこと。たまたまと思い様子を見ていましたが、その後もずっと頭痛なく過ごされています。

K子さんが初診の時に仰ったことをふと思い出しました。「蕁麻疹が出始めた頃から体の調子が変わってきたんです」。K子さんの場合、中学生の頃からからあった陰陽のバランスの問題が長年頭痛として表現されていましたが、そこに年齢や過労による気の不足が加わって蕁麻疹も出るようになったのでした。はじめに頭痛の話を伺った時にはそこまで通せておらず、2段構えでの治療を考えていましたが、頭痛の根本にあったのも陰陽の気のバランスの問題だったことを治療を通して理解しました。K子さんは他にも興味深いことをおっしゃって下さいました。「漢方を飲むようになってから手足が暖かいです」。冷えに特に配慮をした薬を処方していたわけではなく、陰陽のバランスを整えることで冷えにも効果があることを教えて頂きました。

現在は薬を減量しても症状も気にならないようになっており、そろそろ治療も卒業されるかなぁと思っています。嬉しさ:寂しさ=9:1です。

皆様どうぞ良いお年をお迎え下さい。(拓也)